アルスランとペッツォルト
~現代ドイツ映画2大巨匠対決~

上映スケジュール

2015年9月19日(土)~9月25日(金)

料金

600円均一(1作につき)


レクチャーあり◉参加費無料
9月19日(土)【レ-1】ベルリン派総論 ~新しい作家映画について~
9月20日(日)【レ-2】ペッツォルト映画の特徴 ~アルスランとの対比から~
登壇:渋谷哲也(ドイツ映画研究)
会場:立誠シネマ(上映会場とは別室で行います)
時間:各日15:00~16:00予定

普段なかなか観ることの出来ない世界各国最先端の映画を観て、世界について学ぼう!立誠シネマでは日本の映画館ではお目にかかる機会が少ない、けれども非常に優れた作品や作家、ムーブメントをご紹介するシリーズをスタートします。今後も様々な国、地域の映画をお届けします。記念すべき第1回は現代ドイツ篇!

 
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1990年の統一後、ドイツ映画は世界的注目を失ったままだった。その沈黙を破ったのが2000年代初頭の「ベルリン派」の台頭である。フランスでは「ヌーヴェル・ヴァーグ・アレマーニュ(ドイツの新しい波)」と呼ばれた。日常的な事柄に目を向け、スペクタクルや饒舌とは無縁に映像本位でドラマを紡ぐ繊細な作品群は、当初から批評で絶賛された。だが興行的な成功からは遠く、次第に映画業界人から反感の眼をもって見られるようになる。その一方で90年代から活躍しているペッツォルト、アルスランは自己の作風に忠実にさらに大きな歴史や物語の世界を指向している(ペッツォルトは東ドイツやナチ時代の過去に、アルスランは19世紀末の西部開拓の世界に)。アピチャッポン、ダルデンヌ兄弟などの影響も語られる「ベルリン派」の映画は、映像への信頼によって生み出された珠玉の作品群である。戦後ドイツ映画がずっと実現しえなかった、いわば<純粋映画>がそこにある。
渋谷哲也(ドイツ映画研究者)

❖ベルリン派とは
2000年代初頭にドイツで台頭した独自の映像美学を持つ映画作家たちを指す。ドイツのメディアによる命名であり、すでに90年代から映画制作を始めていたペッツォルト、アルスラン、シャーネレクがベルリン・ドイツ映画テレビアカデミーの同窓生だったことがその由来の一つである。だが、実際のところ、各作家たちの出身地や活動はベルリンに限っていない。長回しや自然光の多用、日常的な場面を淡々と撮る映像スタイル、登場人物の現実を追体験させるような作風が特徴である。アントニオーニ、ブレッソン、カサヴェテスなどの影響が語られることもある。(渋谷哲也)

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上映作品

トーマス・アルスラン作品
 
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【A-1】 『兄弟』Geschwister 1996年(82分)

監督・脚本・編集:トーマス・アルスラン 撮影:ミヒャエル・ヴィースヴェク
出演:タメール・イギット(エロル)、サヴァシュ・ユルデリ(アハメド)、セルピル・トゥルハン(レイラ)、ヒルデガルト・クーレンベルク(母)
◉トルコ人の父とドイツ人の母を持つ3兄弟の日常を描く。兄エロルは学業を中断して自堕落に生きていた。弟アハメドは高校に通いながらドイツになじんでいた。正反対の兄弟の葛藤を見ながら、妹レイラも日々に不満を抱えていた。そんな彼らの日常は、エロルがトルコ軍に徴兵されることになり、さらに緊張を孕んでゆく。
【上映日程】9月19日(土)11:00~ / 9月22日(祝)13:10~


 
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【A-2】『売人』Dealer 1999年(74分)

監督・脚本:トーマス・アルスラン 撮影:ミヒャエル・ヴィースヴェク 編集:ベッティーナ・ブリックヴェーデ
出演:タメール・イギット(ジャン)、イディル・ユネル(ジャレ)、ビロル・ユーネル(エルダル)、バキ・ダヴラク(ゼキ)
◉ジャンはベルリンに住む麻薬の売人で、ボスに目をかけられ成り上る道を夢見ていた。恋人ジャーレとの間には幼い娘がいて、ジャーレはジャンに堅実な生き方を求める。ある日ボスが殺され、ジャンは決心してレストランの洗い場で働くことにする。だがそんな堅気の生活を続けられるジャンではなかった。
【上映日程】9月20日(日)11:20~ / 9月23日(祝)13:10~


 
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【A-3】『晴れた日』Der schöne Tag 2000年(74分)

監督・脚本:トーマス・アルスラン 撮影:ミヒャエル・ヴィースヴェク 編集:ベッティーナ・ブリックヴェーデ
出演:セルピル・トゥルハン(デニス)、ビルゲ・ビンギュル(ディエゴ)、フローリアン・シュテッター(ヤン)、ハンス・ツィッシュラー(監督)
◉21歳のデニスは、映画の吹き替えの仕事をしている。『夏物語』(エリック・ロメール)の録音の後、彼女は恋人ヤンに別れを告げる。晴れたベルリンの街を歩きながら、彼女は愛について思いを巡らせる。「彼女は街の現実の地理関係に従って移動する」(アルスラン)
【上映日程】9月21日(祝)11:20~ / 9月24日(木)13:10~


 
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【A-4】 『彼方より』Aus der Ferne 2006年(89分)

製作・監督・脚本・撮影:トーマス・アルスラン 録音:アンドレアス・ミュッケ=ニージトカ 編集:ベッティーナ・ブリックヴェーデ 製作会社:ピックポケット・フィルムプロドゥクツィオン ZDF/3sat
◉アルスラン自身の撮影によるトルコ横断のロード・ムービー。ヨーロッパとの接点イスタンブールを出発点として東進し、首都のアンカラ、ガズィアンテップ、ディヤルバクルを経てイラン国境のドゥバヤジットへ……。都市化された西部地域から紛争の続く東部へと、現在のトルコの断面図が描き出されていく。
【上映日程】9月21日(祝)13:10~ / 9月25日(金)13:10~


 
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トーマス・アルスラン Thomas Arslan

1962年、ブラウンシュヴァイク(ドイツ)生まれ。小学校時代の4年間をアンカラ(トルコ)で過ごした後、ドイツに戻る。86年にベルリンの映画テレビアカデミーに入学し、92年より映画監督・脚本家として活動。アカデミーの同窓生クリスティアン・ペッツォルトらと作風が類似していたため「ベルリン派」と称された。代表作はトルコ系移民2世の若者を取り上げた3部作『兄弟』『売人』『晴れた日』。ドキュメンタリー『彼方より』でトルコにカメラを向けた後、2006年の『休暇』からトルコから離れたテーマの映画の制作も行っている。2013年の『黄金』では、19世紀末カナダで金鉱を探すドイツ人移民グループの旅を映画化した。

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クリスティアン・ペッツォルト作品
 
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【P-1】『治安』Die innere Sicherheit 2000年(106分)

監督:クリスティアン・ペッツォルト 脚本:クリスティアン・ペッツォルト、ハルーン・ファロッキ 撮影:ハンス・フロム
出演:ユーリア・フンマー、リッチー・ミュラー、バルバラ・アウアー
◉かつて過激な政治活動に身を投じ、今なお逃亡生活を余儀なくされているクララとハンス、そして逃亡中に生まれた二人の15歳の娘ジャンヌ。世界のどこにも居場所がない親子の孤独を描いたペッツォルトの商業映画第一作。デビュー間もないユーリア・フンマーが鮮烈な印象を残す。
【上映日程】9月19日(土)12:50~ / 9月23日(祝)11:00~


 
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【P-2】『幻影』Gespenster 2005(85分)

監督:クリスティアン・ペッツォルト 脚本:クリスティアン・ペッツォルト、ハルーン・ファロッキ 撮影:ハンス・フロム
出演:ユーリア・フンマー、 ザビーネ・ティモテオ、マリアンヌ・バスレール
◉近代都市に変貌しつつあるベルリンを舞台に、誘拐された娘を探しにやって来たフランソワーズ、ベルリンの福祉施設で暮らす孤児のニナ、素性の分らぬ年長の少女トニが出会う、フランソワーズは偶然出会ったニナを失った娘だと思い込む。亡霊のように世界をさまよう人物を描いた「幻影三部作」の第二作。
【上映日程】9月20日(日)13:10~ / 9月24日(木)11:10~


 

【P-3】 『イェラ』Yella 2007年(89分)

監督・脚本:クリスティアン・ペッツォルト 撮影:ハンス・フロム
出演:ニーナ・ホス、デヴィット・シュトリーゾフ、ヒンネルク・シェーネマン
◉仕事を求めて旧東独のヴィッテンベルゲを発ったイェラは、夫の無理心中を逃れ、ハノーファーでベンチャーキャピタリストのフィリップと出会う。イェラはフィリップのパートナーとなり、彼との将来に希望を見出すが、元夫の出現に悩まされる。ニーナ・ホスは本作でベルリン映画祭主演女優賞を受賞。
【上映日程】9月22日(祝)11:10~ / 9月25日(金)11:10~


 

クリスティアン・ペッツォルト Christian Petzold

1960年、ヒルデン生まれ。ベルリン自由大学でドイツ語と演劇を学んだ後、ベルリン・ドイツ映画テレビアカデミーに学び、ハルーン・ファロッキやハルトムート・ビトムスキーらの助監督を務める。テレビ映画の演出を手掛けた後、商業映画第一作『治安』(2000)を監督。『治安』はドイツ本国で10万人の観客を動員。 ドイツ映画賞最優秀賞を受賞し、一躍ドイツを代表する映画作家の一人となる。その後、『治安』と「幻影三部作」を構成する『幻影』(2005)『イェラ』(2007)等を発表。新しいドイツ映画を象徴する「ベルリン派」の中心的作家として、国際的な注目を集める。『東ベルリンから来た女』(2012)は日本でも劇場公開された。また2015年秋、ニーナ・ホス主演『あの日のように抱きしめて』(原題:Phoenix)も日本国内で劇場公開。

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あの日のように抱きしめて
クリスティアン・ペッツォルト最新作、日本国内劇場公開!
『あの日のように抱きしめて』
2014年/ドイツ/配給:アルバトロス・フィルム/98分/原題:Phoenix
監督:クリスティアン・ペッツォルト
出演:ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト、ニーナ・クンツェンドルフ
関西は8/29(土)より京都シネマ、テアトル梅田、順次シネ・リーブル神戸にて公開!

 


 
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企画・主催:渋谷哲也(東京国際大学)
共催:立誠シネマプロジェクト
   ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川
 
*『治安』『幻影』『イェラ』およびC・ペッツォルト近影 ©Christian Petzold